レクイエム

18/Ⅶ.(土)2020 雨 三浦春馬、死ぬ。

いまどき、「すべての人間が平等だ」、と本気で信じ込んでる人は少ないと思うが、
人間誰しも、「自分の意志で生まれて来たんじゃない」、という点と、「自分の望むタイミングでは死ねない」、という点のみにおいては平等だ。
そんな宿命に抵抗する手立は自殺くらいしかないのだとしても、失敗して生き残るとかえって面倒だったりするし、成功するにせよ、死ぬまでは生きてないといけない訳で、決意してから死ぬまでの時間は恐怖だろう。
自殺をする勇気がないのなら、せめて安らかに死なせて欲しいものだ。
研修医の頃、精神科の主任教授に、「川原君、今後の高齢化社会で重要なことは何だと思う?」と質問された。
僕は少し考えてから、<安楽死ですか?>と答えたら、教授は、真顔で「惜しい!」と、うなった。
ちなみに、正解は、「安心してボケられる世の中作りだ」って。

コロナや災害で、いつ死ぬかが分からないと考える人が多くなった。ま、そんなことがなくても武士道とはそういうものだったのだが。ナントカ白書によると、コロナで「自殺者」はむしろ減っているらしい。統計の取り方で物は言い様だと思うが、僕の臨床的肌感覚では、「死にたい」「消えたい」という人は断然と増えている。

今回は自殺者のことは脇に置いておいて、残された人の物語にしようと思う。↓。

そいつと僕は仲が良くて、浪人時代は同じ予備校に通って、隣の席に座って授業を聞いていた。
そいつは僕より頭が良くて、背も高くて、いつも落ち着いていて、真面目な男で、真面目すぎる所が逆に面白い位で、
大人で、だけど、若々しさに欠けていたとも言えるな。だから早死にしたのかな。
そいつが死んで、少しして高校の時の仲の良い5人だけが、自宅に招待された。
家にはそいつのお母さんとお姉さんがいた。
それが僕らの人生初の「故人を偲ぶ会」だった。
この時は大変だった。
僕らはまだ高校を出たばかりで、どんな格好をしていけばいいのかも誰も判らなかった。
前日に、僕らはゆかりの地である御茶ノ水に集まってミィーティングをした。
なぜ僕らだけ招待されたのか?
ご家族は何を望んでいるのか?
僕らはどんな顔をして、何の話をすればいいのか?
話してはいけないことはあるのか?
お姉さんが美人って本当なのか?
それはこの際、関係ないだろう?
でも、美人らしい。
結局、服装は普段通りで行こう、ということしか決まらず、その日は散開した。
僕は今思っても、結構、真剣に自分の役割とかを考えたと思う。
そうして、僕は「偲ぶ会」用に2つのネタを思いつき用意した。
「偲ぶ会」は想像したより明るい空気で進行した。
向こうのお母さんとお姉さんが僕らをとても良くもてなしてくれたからだ。
みんなのする高校時代の想い出話を、お母さんとお姉さんは<へ~、そうなんだ>とにこやかに聞いていた。
すると思いついたように、お姉さんは、予備校時代はどうだったのか?、と質問してきた。
今だ!
僕は1つ目のネタを出す。
鞄に仕込んでおいた‘エロ本’をテーブルの上に置き、<借りたまま、返せなかった本です>と姉に差し出した。
一緒にいた奴らは、びっくり仰天した顔をして、中には「馬鹿!やめろ!」と怒ってる奴もいた。
だが、時すでに遅し。
お姉さんは、‘エロ本’を手に取って、1枚1枚、丁寧にページを繰って、じっくりと見て、不意に一粒の涙が頬をつたうと、
ポーンとテーブルの上に‘エロ本’を放り投げて、「な~んだ、あの子、こんなの持ってたんだぁ」と、嬉しそうに笑った。
その優しげな笑顔に、一同胸を撫で下ろした。
それでハードルが下がったんだろう、みんなは高校時代の馬鹿話に花が咲いて、やがて暴露合戦みたいになり盛り上がった。
そして時間はアッと言う間に過ぎて、そろそろ、おいとまに。しかし、僕にはもう1つネタがある。ここがタイミングだ。
<あの~、僕、あいつに2千円、貸してて、返して貰ってないんですけど…>。
またもや一緒にいた奴らは、びっくりした顔をして、中には「馬鹿!やめろ!」と怒る奴もいたけど、すぐさま、お母さんが
「あら、ごめんなさい。もう、あの子は借りっ放しね。他にはいない?」と財布からお金をくれた。便乗する者はいなかった。
そして僕らは、お母さんとお姉さんの笑顔に見送られて、最寄駅へと向かった。
僕はみんなに、<牛丼でも、おごろうか?>と言ったけど、みんなは「その金じゃ食えないよ」と口を揃えて言った。
その日の僕の成績は、現金2千円のプラスと、‘エロ本’1冊のマイナスだった。
この2千円の正しい使い途は、どう考えても‘エロ本’だろう。当時、御茶ノ水には有名な‘エロ本屋’があった。
僕はみんなにそこに行こう、と提案した。みんなは、ブツブツ文句を言いながら、渋々、後について来た。
そして、結局、なんだかんだ言って、みんな1冊づつ、買うことになった。
「これも供養だ」と合理化する奴もいたが、僕も<その通りだな>と思った。
皆さんは、「故人を偲ぶ会」について何か考えたことがありますか?

そいつは岡田奈々が好きだったから、これをBGMに。

BGM. 岡田奈々「らぶ・すてっぷ・じゃんぷ」


12 Replies to “レクイエム”

  1. 川原先生、こんばんは。
    不謹慎な表現ではありますが
    人って人生に退屈や生きてる感じがしないときにいたずらに人の「死」や「不幸」を目にした時に気持ちが高揚したり
    しませんか?それを客観的に気づかない
    と楽しんでいるようにさえ思えます。

    「memento mori」死を想え でしたよね? 上記の状態には必要なのかもと
    思いますが、今度は自分自身の「死」
    と向き合い過ぎると「死にたくなる」
    ので気持ちが周りに目がいかなくなる
    と凄く危険!だから「死にたい」って
    感じたら言って欲しいなって思います。
    *自分の場合は親しい人にしか対応できませんが…
    後は不思議な事なのですが、「死にたい」「消えたい」とか自分もよく思ってしまうのですがそれと同時に「人に迷惑かけちゃう」と思ってしまうので2~3秒程で「死ねない呪い」という不治の病
    にかかっていると気づかされてしまいます。うざいのにさからえない、面倒な事です。
    春馬君にはご冥福お祈りします。

    1. ネコスッキーさん、OHA!

      メメントモリは、ペストの頃だから、今のコロナと時代が似てますね。
      僕は以前に下北沢駅が消防法の問題で改築されるのを反対した(?)有志のライブ、「メメントモリを笑え」というので、志の輔をみました。

      死にたい時、誰かの顔が浮かぶのはいいことですね。

  2. 三浦春馬くんが 突然 どこか違う世界に逝ってしまった。何年か前に、多部未華子ちゃんと共演した映画を見て、二人ともいいじゃないか、こころがさくら色に なってやさしくなれそうじゃないか🌸🌸と思っていた。
    9月から予定の、三浦春馬くんの 楽しそうなドラマを楽しみにしていた。
    こういった喪失感は、これまでの人生に、すでに何度もあったはずだが、今回のこの気持ちは どのように 扱えばいいのか、いまだ見当がつかない。
    三浦春馬くんに、「安心してボケられる世の中作り」に 率先して取り組んでもらいたかった。なんだかわからないけど、ニコニコした日々を過ごして、いつのまにか、なにがなんだか わからなくなる。今日もお食事が おいしくて うれしいねぇ🔅とか 毎日 つぶやき、なぁんにも わからなくなったけど、なんだか しあわせだなぁ❤️なんて ふと思う。そして、いつのまにか この世とお別れっていうのを 三浦春馬くんに してもらえたら、よかった。

    岡田奈々 よかったです😿
    ありがとうございます。

    1. まめ久太郎さん、OHA!

      岡田奈々のあの曲は、彼女の歌手活動ではじめて「ふるわなかった」歌です。
      人気絶頂期だった彼女の家に暴漢が入って一晩過ごして逃げました。
      それから、その晩に何があった?と憶測を呼び、今のようなネット社会じゃないから良かったけど、ずい分、勝手なことも言われてましたよ。
      岡田奈々は手と心に傷を負い、そこからの復帰第一弾が、この歌でした。
      しかし、アイドル稼業は大変です。この曲以降、極端に売れなくなったのです。
      僕は好きな歌なのですが、「友人」もシングルを買って持ってましたよ。
      そうそう、その事件は、確か時効で、犯人みつかってないんじゃなかったっけ?

  3. 僕はこの日、久しぶりに「あつまれどうぶつの森」というゲームをやっていました。
    ラコスケ(ラッコのキャラクター)に初めて遭遇して何を言うのかなと思ったら(ラコスケはホタテをあげると哲学的な名言を言います)、
    「似たようなものではあるが 眠りは 死ぬことより エレガントである」・・・
    わかったような、わからないような

    来週になって欲しくなくて、なかなか寝ようという意思がはたらかないので、投稿させていただきました

    1. すみっこぐらしさん、こんにちは。

      「来週」になってしまいましたが、大丈夫でしょうか?こちらは元気です。

  4. 人が亡くなった話なのにいい話ですね。
    先生も先生の仲間たちも
    友達のおかあさん、お姉さんも
    みんな素敵な人たちだ。

    そろそろまじめに終活を考えないとと思ってますが
    やりたいことをやり切ったら
    そう、ボケるが勝ち、と思います。

    BGM:桑田佳祐 波乗りジョニー

    1. ふたらのたかねさん、こんにちは。

      お姉さんは美人でしたね。高校卒業したくらいだと、友人の「お姉さん」って憧れますね。
      女子大生、って響きは、「お姉さん感」が強くてドキドキしてました。
      さすがに僕も50を過ぎると、女子大生、くらいでビクともしなくなりましたが。

      しかし、残された家族はずっと背負っていくんでしょうね。
      僕らは歳月とともに想い出は薄れて行きます。薄情なもんだ。

  5. 故人を偲ぶ会は、まだ経験したことは、ないです。
    供養といったら、なんだろうなあ・・・・。
    神保町も、いくつかエロ本屋がありましたね。何度も中に入りましたが、買ったのは、たいていエロ・ビデオでした。ビデオもそうですが、グラビア写真の恐いものはイヤなので、買いませんでした。
    しかし、不景気の中でも、いやらし路線、つまりHものは、売れるそうで、このことを親父に言ったら、「それは・・・・いいことだなあ・・・」と感心している様子でした。

    1. papaさん、こんにちは。

      僕らが寄ったのは、お茶の水(神保町)の「芳賀書店」です。
      ビニール本で一世を風靡した店です。
      自動販売機本、と同じで、「買うまで」がドキドキで、開封すると「何でこんなの買ったんだ?」と妙に冷静になって。
      でも、学習しなくて、また同じ事を繰り返してた訳ですが(笑)
      ではまた~

  6. 川原先生 今日は~!病いでお労しい所に失礼とは思いますが。実は「めまい」の記事で思いっきり笑ってしまいました。夫に話したら、やはりお腹を抱えていました(2人経験者)。「めまい」は経験者でなければ分かり合えない所がありますね!男の人は三重苦でも、「あ、ブラが粗末だった」なんて考えなくて親切に甘えられる所が羨ましい!!!

    1. エコさん、こんにちは。

      大学病院に運ばれたのですが、ドクターからは、「一泊入院したらどうですか?」と勧められました。
      しかし、前述の如く、スタッフは美男美女。ナースは可愛くて優しい。
      近頃は、家庭でもクリニックでも冷たくあしらわれてるから、もしも、そんな桃源郷に入院してしまったら、甘えん坊になって、退行して、ホスピタリズムになって、退院するのが嫌になっちゃいそうだから、断って帰ってきました。

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