僕は新婚旅行で熱海に来ている。新婚旅行と言えば、やっぱり熱海だ。
熱海の海岸散歩する。砂浜のギリギリまで波が打ち寄せるが、さらにそこに鉄道の線路がひかれている。
彼女は僕に、「この電鉄、何だかわかる?」となぞなぞを出した。
「波打ち際のギリギリまで来てる電車よ」とヒントも。
僕は、「そんなの江ノ電だろ」と答えると、彼女は「あ~あ」と答え、
「あなたと来たら、ハワイでもグアムでもサイパンでも違いがないのね」と溜め息ひとつ。
実際、僕は香港と台湾を勘違いして、「100万ドルの夜景の感想を聞かせて下さいね」と馴染みの店の女主人に送り出され、
数日たって、この国(台湾)はその国(香港)じゃないと知った前科がある。その位、僕は旅オンチ。
そんな僕でも目が覚めたのは、高くそびえる「ゴジラ城」。
近くの医者の固有財産で、勝手に観てもいいらしい。
早速、登山。山道は比較的楽だが、こんな時に痛感するのは、子供だった頃にはスイスイ登れた獣道が、
今では体が重くてイメージ通りに登れない。
子供の頃に出来なければ大人になってやろうと思わないが、なまじ子供時分に出来たから、脳にそうインプットされてて、
体は脳の指令通りには動かないから始末が悪い。
子供の頃に空を飛べなかったから良かったようなもので、ピーターパンみたいに夜間飛行した自信があったら、
転落死している。
それでも何とか登りついた。
何人かの見知らぬ顔見知りと共同して各々各自行動した。
頂上まで上ると、「ゴジラ城」は大木が数々と嵐のあとのように倒れていて、道は塞がれて、
マーライオンのようなバイクに乗った、イカサマな暴走族が騒音をたてて不恰好に沿岸通りを突き抜けて行った。
僕の体は子供に若返って、マーライオンをキリキリ舞いさせるべく、奴らのバイクのギリギリまで全速力で走って、
ぶつかる寸前でフェイントかけて、ハンドル操作を鈍らせて横転させる、そんな遊びを3回くらいしたら、警察官に注意された。
熱海の1日警察署長はピンク・レディーで彼女らは、
「百恵さんも引退し、チェッカーズもどこに消えたかしれないから、私たちは熱海でビキニでペッパー警部をしてるのです」
と色っぽく言った。
それはまるでイメージビデオよろしく、ミーとケイは、紺と白の縞々のビキニを着て、頬と頬を寄り添いながら泳いで来るから、
息継ぎの呼吸を合わせ、そのタイミングがまるでキスをするようで、そうかと思うと、背泳ぎの格好になって、
水を口からはく、口の形が、大きく口を開け、小さく口をすぼむ、連続運動で、なんかエロチックで、いかにもで、
パクパクと、ピンクレディーの全盛期を知らない人はいなかったけど、晩年にはこんな良い仕事をしてたんだ、と再発見した。
熱海の「ゴジラ城」の前は神殿で、何教かわからないカオスで、女子プロレスや、昭和ポルノや、やくざ映画に、
ゴジラやウルトラマンやスペクトルマンや宇宙猿人ゴリの映画館やアトラクションが、山の奥に隠れている。
東京ディズニーやUSJをキッチュにしたその爆発力とノスタルジーは、熱海でなければ再現出来まい。
スペクトルマンの敵の怪獣の左腕が僕に向って飛んでくるのだ。花火もうちまくる。
しかし、そこにたどり着くのに、所有者である医者の病院の中を通してもらわないといけない。
その医者は坊さんで詩人でプロレス通なアイドルオタクのロリコンで、特撮ヒーローを等身大で作ってしまう桁違いのマニアで
こっそりビデオを見たら、開演パーティーに、森進一、が来て、祝辞を述べ、
ポルノ館の前で、「私もバイブレーターをコレクションしています」とうっかり口を滑らせたため、芸能界を干されかけたことがあるらしい。
それほど崇高な山である。
寺は病院で、迷路のように診察室を忍者屋敷のからくりのように上って行くのだが、チラリと見えた名刺のロゴマークが、
緑色で「K」「川原クリニック」だ。あれ?これ、うちのパクリじゃん?と一瞬思うが、アイデアに特許はないから、
とにかく、もうこの際は、そんなことはどうでもいい。
この病院だか文化遺産をしかと堪能しようではないか。おおそうじゃ。
どうも僕らの医局の先輩とこの熱海の病院の先生は懇意らしく、特別に1日で謎解きを教えてくれ自ら案内してくれた。
僕は特撮物に目を奪われたが、どうもこれらがバッタモンだと見抜き、さほど価値のあるものでもなさそうだ。
アイドル物も、おそらく神保町に行けば揃う品物で、アイドルのセレクトも、
堀ちえみ、や、キョンキョン、や、山口百恵、や、ピンクレディーなど、あっと驚く希少品はなく、
只、山口百恵の乳首が4つ写ってる黒のビキニ写真があったが、あれは月刊・平凡に間違いない。
今からでも、お茶の水で買える筈だ。
病院はお寺で、治療をするのか埋葬するのか、よくわからないポリシーだが、ダメになった時の流れは早そうだ。
僕らは院長に全ての隠し部屋をみせてもらった。なかなかマニアックな本棚だ。
仏教、右翼、ロリコン、プロレス、思想、精神世界、特撮、アイドル、共産党などだった。
僕は本棚とずっとにらめっこ。
館長が「さっさと行きましょう」と言うが、あまりに僕が集中してるから、気に入られ、
「トリプルファイターのブロマイド集」と「野坂昭如の自筆のエッセイ」をあげるから、「もう先に行こう」と促された。
僕は少女ポルノの写真をみつけ、「これは所持していたら犯罪では?」と問うと、
そのお坊さんは僕を熱海の繁華街に連れて行き、シャッターが下りてる店をこじあけ、自らの名を名乗り、
「この人にサービスしてくれ」と紹介してくれ、すると、なんと、その売り子が少女ポルノのモデル本人だった。
「DVDを買って下さい」と言うから、つきそいの坊さんは、「つきあっちゃえばいいじゃん」とそそのかして、
僕はその子と一緒にあうことになった。
彼女は僕が18才の頃にみたビニ本のアイドルで、計算すれば今は65才くらいだ。
なのに、なぜステキなままなのだろう。
解散の時間は刻一刻と迫っている。僕だけ不埒なことをして皆を待たせてる。
手には、トリプルファイターと野坂先生の書物を持っている。
僕はこれから東京に帰って普段通り仕事をする。
熱海の病院(寺)に世話になったが交流が続くかはわからない。
でも熱海の坊主(院長)、僕と趣味がまる被りだったな。
僕はうちのクリニックはちょっと面白いから、いずれ評判になるかもな、と思っていたが、
熱海の病院をみたら、スケールが違い過ぎて、まるであっさりとそんな期待と心配がなくなった。
まじめに仕事をして行こうと思うた。