心の護美箱⑮がいっぱいになったので、⑯を作りました。今回は過去の記事のアーカイブスではなく、書き下ろしです。
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僕の大学の同級生に「アイスクリーム・ベイビー」という子がいました。
僕は学園祭では大酒くらって暴れてるグループで、アイスクリームは「川原君!お酒に飲まれちゃダメよ!」と叱る係り。僕はアイスクリームには弱いから、すぐ大人しくなっていました。
アイスクリーム・ベイビーは、僕がつけたあだ名。いつも怒ってばかりで、「冷たい」けど、最終的には僕に「甘かった」。甘くて冷たいから、アイスクリーム。
僕はあまり真面目な学生ではなかった。アイスクリームは「川原君、授業サボったでしょう」と委員長風に生活指導して来て、「はい…」と反射的に謝ると、「もう!」と怒ってそっとノートを置いてってくれるのです。
Wエンジン・チャンカワイのギャグではないが、「惚れてまうやろー!」。
さて、今回はアイスクリーム特集号ですから、僕のアルバムから彼女のスナップ写真を寄せ集めてみました。
その1.多摩川にて。「アッカンベー」をしておどけるアイスクリーム。「アッカンベー」で思い出すのは、第1回IWGP決勝戦で、ハルク・ホーガンのアックス・ボンバーで場外ノックアウト負けを喫し悲願のIWGPタイトルを奪取出来なかった際の、アントニオ猪木の失神した時の負け様。
負けていながらも相手を挑発してるかのような「アッカンベー」。ローリング・ストーンズのロゴにも通じるロック魂を感じたファンも多かったと聞く。
その2.あだち充の「タッチ」などに出てきますが、校内のカワイ子ちゃんの写真を望遠レンズなどで盗撮して学校で売買する奴とか、本当にいましたよ。「写真部」とかでね。そいつから買いました。…でもよくみたらカメラ目線だ。誰から入手したんだっけ?いずれにしろ裏ルートだ。
その3.文化祭で酔った勢いで急接近!
その4.ニコニコしてますが、翌日から、口をきいてくれませんでした。
その5.翌年の文化祭。肩を組む僕の右手(めて)を、アイスクリームの左手(ゆんで)が嫌がっています。
その6.卒業間際は普通になりました。医学部は6年間あります、時は魔術師ですね。
アイスクリームとの思い出話をいくつかします。
・僕らの世代の医学部の女子は美人が多いですが、アイスクリームは地味目です。
服装のセンスも、どちらかというと野暮ったいです。
朝も女子は準備が大変だと思うけど、アイスは寝癖のまま来たりしてまして、僕はそういうナチュラルな彼女が好きでした。
その頃に僕が作った歌です。作詞・作曲、川原達二「レモン」という歌です。
これは、授業中にアイスクリームの机に何故か、レモンが2個置いてあったのをみて、授業中に作りました。
こんな歌です。
♪髪をすく後姿、とても好きだから、君の髪が爆発してるとワクワクする朝なんだ
ブラシ片手、髪をとかす仕草、素敵だね
ブラシになりたい〜黒髪のせせらぎ泳いでみたい
彼氏になりたい〜日曜の昼間はゴロゴロしたい
君の机に二つ並んだレモンのように♪
・アイスクリームの誕生日は僕より早い、4月か5月か6月だった。
僕はオシャレな男子にプレゼント必勝法を伝授され、新宿の伊勢丹のバラの花専門店の「ローズガーデン」とかいう名前の店から珍しい色のバラの花を四角い箱に入れてもらって郵送してもらった。
そうしたらアイスクリームには全然響かなくて、箱ごと僕の家まで徒歩で返しに来た。僕のアパートとアイスの実家は歩いてすぐの距離だった。それもそのはず、僕がアイスの家のそばの物件を借りたからだ。
・日曜ロードショーでオードリー・ヘップバーンの「ローマの休日」をやった時、僕はオードリー・ヘップバーンが映画の中で長い髪をバッサリと美容室で切る新しい髪形が、アイスクリームと似てると常々思っていたものだから、
アイスクリームに映画をみるよう勧めておいた。
そう言われて満更でもないアイスクリームは番組を録画して、そういう僕はみなかったからビデオを貸してもらう約束をした。
ある日、僕は僕のアパートで実習で同じ班の女子(異性としてみてない)と二人で課題をやっていた。
そこにいきなり「ピンポン」とベルが鳴って、扉を開けたらアイスクリームが、「ローマの休日」のVHSビデオを持って立っていた。
来る前に電話くれればいいのに。
そうして、僕は僕のアパートで同級生の女子二人を鉢合わせさせてしまった。
僕は同じ班の女子に「お前、帰れ」と追い払おうとしたら、女の意地の張り合いは怖いね、両者一歩も譲らずだ。
僕は、「けんかをやめて」の河合奈保子(竹内まりや、でも可)の心境だ。
その結果、僕らは気まずい思いをしながら、3人で僕のアパートの4畳半のコタツに入って、「ローマの休日」日本語吹き替え版CM入りを観る、というわけのわからぬ状況を味わった。
・医者になって何年か経っていた。僕もアイスもぞれぞれ別の人と結婚していて親になっていた。
僕が通勤で使う南武線に乗っていたら、バッタリ同じ車両でアイスクリームと逢った。
アイスは幼い子供を抱っこ紐で抱えて保育園に連れて行く道すがらだった。
「それ子供?」と僕が聞くと、アイスは涼しい顔をして「そう。私、離婚したの。『ボクは強く生きるのだー』」とおどけて子供の片方の手を持って、エイエイオーみたいなポーズをとった。
するとその子は僕の顔をじっと見て、おもむろに手を伸ばし、僕の鼻をギューッとつまんだ。
アイスはあわてて、「ごめんなさい。普段、この子、こんなことしないのよ。川原君になついたのかな」と笑って、手を振って次の駅で降りた。
僕は「何か困ったら俺に」と言ったら、アイスはニコニコしてた。それが彼女の最後の笑顔だった。
僕はその日は1日中考えて、家に帰って、奥さんにそのことを話して、「俺が面倒をみるべきかな」と相談したら、奥さんはスルリと「何言ってるの。それよりご飯にするの?お風呂?」と言うから、話はそこで立ち消えた。
僕がアイスと会ったのはそれが最後です。
そんなアイスクリームが死んだらしい。年末に聞いた。本当はもっと前のことだったらしいが、僕が落ち込むんじゃないかと気にして知らされてなかった。
それから人づてに色々聞いたら、どうやらアイスクリームの死因は、アル中だったらしい。
バカだなぁ、アイスクリーム。酒で死ぬなんて。よく知らないけど、きっと1人で呑んでたんでしょう?俺を誘えば良かったのに。
2人で呑んでりゃ口は一つしかないのだから、飲むか喋るかどっちかしか出来ないから、飲む量が必然的に減ったのに。
甘くて冷たいアイスクリーム・ベイビー。こんな季節は暖炉の火を見ながらレディーボーデンのアイスクリームをつまみに一杯やりたいね。
僕はまだやり残したことがあるからすぐには行けないけど必ず行くから(笑)暖炉にくべる想い出噺でも拾い集めて待ってろぜ。
BGM. ドリス・トロイ「ジャスト・ワン・ルック」