風景の起源

13/Ⅱ.(水)2019 はれ少しあたたかい 「ラテンの黒豹」ペドロ・モラレス、死ぬ。76才。

お恥ずかしい話だが、研修医に成り立ての頃、無断欠勤がバレて、ペナルティーで「2週間連続当直」の刑になった。
今でもそうだが、医者の当直は、翌日も勤務である。
当直は当直室で仮眠して、呼ばれたらすぐ病棟や救急外来に行くのが仕事。
だから、運が悪ければ、2週間まともに寝れないのだ。
でも僕は、へこたれなかった。勿論、自業自得だと反省した、のではない。
2週間、当直室から家に帰れない泊り込みという状況が、「日本一のホラ吹き男」の植木等みたいだと思ったからで。

映画で、臨時雇いで会社に入った植木等が配属された部署は、会社にとって何の関係もない古い書類の整理。
皆、やる気がない。

「ここじゃ、いくら頑張っても出世はないよ」と先輩から言われる。
すると、植木等は、底抜けに明るいテンションで、張り切って、荷物をまとめて会社に泊まり込み、仕事をする。
「そんなにまでして残業代が欲しいのか」という皮肉にも、<いいえ、残業代はビタ一文、いりません>。
そして、1人で、書類を全部、片付けてしまう。

労働組合は残業して残業代を取らないことを問題視し、同じ職場の人間達は「仕事がなくなってしまった」と不満を言う。
そうして、会社は仕方なく、植木等を他の部署に係長待遇で異動させる。ここからホップ・ステップ・ジャンプ!
東京オリンピックの直後の映画で元・三段跳びの選手だったという設定の植木等は、三段跳びの様に出世して行く。
高度経済成長の時代のサラリーマンに元気を与えたと言われる映画だが、今、観ても色褪せないパワーだ。

なので、僕も植木等のマネをして、家から色んな物を当直室に持ち込んだ。
浅草のマルベル堂で、クレージーキャッツのブロマイドをオーダーメイドで引き伸ばしてもらった。
それを当直室の壁に貼った。
陰気な当直室が、まるで僕の1人暮らしの部屋みたいに衣替えした。
評判を聞いて、何人もの看護婦さんや他科の研修医も覗きに来た。皆、「お~」って言ってた。
精神科の先輩には、「川原、やりすぎ!」と注意されたが、怒られはしなかったから、スルーした。

クレージーの特注ブロマイドは、今もカワクリの待合室のテレビ側のソファの方に貼ってあります。僕が医者になったのが平成元年だから、今年、31才になるポスター。↓。

これは最大限に引き伸ばしたから、ラミネートが出来ないので、結構、ボロボロになっていた。
それを受付の大平さんが、補修してくれることになったので、カメラマンとして同行する。
まずは、ポスターを一時、撤去。↓。

処置室に移動して、そこでテープで切れ目を丁寧に貼ります。↓。

綺麗に出来上がりました。大平さんの髪も綺麗です。↓。

元に戻しに行きましょう。↓。

話を、2週間連続当直、に戻そう。

丁度、半分の1週間が終った時点で、調子に乗った僕は、「トニー谷」のブロマイドの特注も発注した。
そのニュースに異常に反応した人たちがいた。
それは誰だと思いますか?
正解は、病棟のナース達でした。

意外と女性には、つらそうな姿をアピールするより、平気の平左、で明るく振舞った方が母性本能をくすぐるみたいだ。
ナースは一丸となって、僕の味方をした。
彼女らのナイチンゲール精神は組織立って、医者や教授や医局長に「いくら何でも可愛そうだ」と意義を申し立てた。

「過重労働でミスが起きたらどうするつもり?」
「川原先生だから笑って仕事が出来ているのよ」
「いえ、ああ見えて、顔で笑って心で泣いているのよ」
「あぁ、いじらしい」
「それに比べて、他の医者は川原先生に仕事を押し付けて、楽をしてるのよ」
「他の医者は、ズルイわ」

などと、本来、僕が無断欠勤したのが問題なのに、矛先が他の医者に向いた。
実際は、僕は研修医だったから、当直には必ず上級医の先生が日替わりで付いていてた。
「2週間当直」というのは、半分、洒落だった。

つまり、学生気分の抜けない僕に社会人の厳しさを教え込ませるための親心であり、問題を大きくしない配慮だった。
そして、2週間、毎日、日替わりで色んな先輩から、生の知識を吸収できるチャンスを用意してくれたのだった。
僕は、ゴールデン・ルーキーで、精神科医として期待されていたのだ。

そんな内輪な洒落は、ナースには通じない。
彼女らは、川原先生を守るためにはストライキも辞さず、の構えだ。
病棟でナースにストなどされたら、大変だ。
医者が、検温や配膳や採血や保清など、駈けずり回らなければならなくなる。
ナース・コールも医者がとる事態になる。
これには上層部もあわて、急遽、僕のペナルティーは1週間で解除された。

そして、医局長はナースの前で、僕を労う為の1席を自腹でもうける約束までさせられた。
憎憎しげに、医局長が、「川原君、何を食べたいんだい?」と僕にだけ見える角度で恐ろしい顔をして質問した。
僕は、<●●のうなぎ>と高級な鰻屋の名前を告げ、<個室で、コースにしてね>と答えた。
ナースを納得させるには、そうとでも言うしかない。それが最善の策だった。
そして、僕と医局長は週末、本当に二人きりで、鰻屋の個室でコースを食べたのでした。
さすが、名店!、うまかったですよ。
もう皆さん、ご承知かもしれませんが、僕はこういう空気、全然、平気なんだ。

えーと、何を言いたいかと言うと、カワクリの空間作りのルーツは、この2週間連続当直に起源があったのかも、と今思う。

BGM. 植木等(ハナ肇とクレイジーキャッツ)「無責任一代男」


6 Replies to “風景の起源”

  1. 川原先生。
    ご無沙汰してます、シンシアです。
    新しいドクターとの信頼関係は、あるようで無いようで?!薬が、たびたび変わり、このシンシアさんが、家で泣き叫ぶと言う、おかしな状態になったりしました。これからが本当の治療になるのか、はたまた、ネガティブ街道まっしぐらか。と、思っていたら、この記事にたどり着き。
    要は、考え方と、ウイットで、辛い環境も、自分の居場所になると思ってしまいました。
    植木等さんの、書類を全部片付けて、出世していく、素晴らしい‼️
    そして、川原先生が、当直室にポスターを貼り、自分のお部屋みたいにしたのも素晴らしいです。
    発想の転換って、こと?
    私、現在、不本意な状況にいて、社会復帰してないのですが、思いきって、飛び出したいと思っています。
    季節の変わり目で、こんなことをいってるのではなく(笑)
    私は、強い人間だ。甘やかされると、むず痒い気がします(笑)
    なんて、ほんとは、寂しくて、(土)の夜に先生のブログに顔を出したんですけどね☺️

    1. シンシアさん、こんばんは。

      返信が遅くなってすみません。
      ちょっとバタバタしていました。でも、ラインは出来るようになりました。
      スタンプを大人買いしたら、きょうび、スタンプっておじさんしか使わない?って聞いて驚愕しています。
      でも、「乙女の駄洒落、昭和風」というスタンプがお気に入りで早速送りまくっています。
      ベルサイユのバラ風の絵柄の少女が千円札を持って申しなさげに「すみませんえん」と言っていたり、
      涼しげな目の少女がヒヤシンスの花瓶を持って、「頭をヒヤシンス」となだめる、ってな具合です。

      ちなみに、ラインのアイコン、植木等人形、にしました。

      1. 川原先生。
        ライン、できるようになったんですね!
        スタンプは、おじさんのものでは、ありませんよ(笑)
        若いお嬢さんたちは、Twitterしか、使わない、ラインは旧いという人もいるみたいてすが、私の女友達は、両方やってますし、私もラインのスタンプ、未だに便利に使っています(笑)
        私は、女のおじさんなのでしょうか???ま、それに、近い行動してますけどね。
        綺麗な女性になりたーい!
        思考回路が、オッサンみたいですから。
        川原先生のスタンプ、かなり、面白い❗️
        さすがです。おじさんだろうが、なんだろうが、世の中は、若い女の子中心に回らせないぞ➰
        いいじゃん。面白い先生や、シンシアみたいな大人がいても(笑)

        1. シンシアさん、こんばんは。

          僕は「先生、スタンプ、買い過ぎ!」と受付に注意されるほど、買いまくって、知り合いに送りまくっています。
          もっと、欲しいのですが、家族に機械を操作され、もうこれ以上、買えないように設定されてしまいました。
          …エロ動画がみれない小学生みたいです。

          仕方ないから、ドコモショップへ行き、「なんとか出来ないか」と言ったら、無理だと。
          「お前もグルか?!」と怒ったら、「お客様、auショップへ」と言われました。
          僕の機種は、auでしたとさ。

          今はこのように盛り上がってますが、熱しやすく冷めやすい性分です、多分、来週くらいには、スタンプブームも沈静化していると思います。

          その頃には、違う「面白」を見つけているでしょう。
          お互い、いつまでも、面白人間でいましょうね。だって、面白い、が一番カッコいいものね!
          ではまた~

  2. どうも。
    救急外来が、救急車で、時間外に運ばれることだけを指すのか、タクシーで、外来へ時間外に行くことも含まれるのか。
    それは、よくわかりませんが「両方」なら、過去に2回経験があります。
    鼻の近くにある動脈から出血して、血が止まらないので、行きました。傷らしきところを医者が見つけ、何かされたら、血が止まりました。
    もうひとつは、コンビニでサンダルがすべって転倒して、後頭部を打ち、目が覚めないので、救急車で運ばれましたが、意識があまりなかったらしく、気がついたら、病院の心電図検査で体を計られていました。CTもやりましたね。
    大事には至りませんでしたが、今、考えると怖いですね。
    私の義兄は、今、全身のじんましんで悩んでいるようです。医者に行っても「原因がわからない・・・」と言われたそうで、まあ色々ですね。
    先生はやはりタフで、お医者さんに向いていたと思うんです。私が当直をやれといわれても・・・ねえ?

    1. papaさん、OHA!

      papaさんの救急車利用は2回とも、大変でしたね。
      これからお互い、年をとるから病気や事故には気をつけ行きましょうね。
      オー、マイ・ダーリン・アイ・ラブ・ユー、
      長生きしてぇな。

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