精神科おすすめ図書

現代のエスプリ、などで精神分析関係の特集をやると、一定数さばけるそうだ。
しかし、それを支えてる購買層は医療関係者ではなく市井の人だという。
確かに身の回りの仲間で「現代のエスプリ、読んだ?」なんて会話はまずしない。
そのように何らかの関心で専門書に触れたい人もいるだろうし、サイコロジストやコ・メディカル、教育現場の方が読んだら役に立つ本を紹介してみよう。

何と言っても最近の流行はコレですね。↓。

この業界のあやしい(←誉め言葉)カリスマ(←とこの本に書いてあった)である神田橋先生のお言葉は、
「発達障害は発達します」で、当事者も周囲の人々も未来に希望をもてるのだと伝える本です。

そんな神田橋先生の「診断面接のコツ」は研修医の時に読めと言われた本で、ベストセラーですね。↓。

同様に研修医の時に読めと言われた本でベストセラーは土居先生のコレ。「面接をする人」なら誰でも参考になります。

僕が研修医2年目で派遣に出された東横第三病院(現・恵愛病院)に、土居先生の「方法」で謝辞を送られてる逸見先生という人がいた。
院長以下誰も喋ったことがない「謎の人物」とされ、とにかく「偉い人」らしいとだけの情報。1週間に半日だけ来てた。
僕は好奇心旺盛なので逸見先生に話しかけてみたら、とても気さくな先生でペーペーな研修医に色んなことを教えてくれた。
それは、教科書に載っていないようなことで、ちょっとここでは書けないようなこともあるが、僕は毎週話を聞いてはノートにとって、そのノートはまだとってある↓。

「方法」が1977年出版で、土居先生の「甘えの構造」が71年に出てるから、こっちを先に読むとより理解できるかもしれませんね。↓。

そんな土居先生と小倉先生の対談本も面白い。神田橋先生がフロアからチャチャ入れるのが面白いです。小倉先生は僕が関東中央病院にいた時のお師匠さんです。やっぱりアクの強い天才精神科医でした。↓。

僕が小倉先生のオフィスにスーパービジョンに行った時、奥の部屋で、土居先生と藤山先生が部屋に入って行くのがみえた。
「あれ、土居先生と藤山先生ですよね?」と聞いたら、小倉先生は「そう。部屋を貸してるんだ」って言って、それ以上のことは教えてくれませんでした。

藤山先生は今の精神分析学会のトップランナーであるが、落語・特に談志の追っかけで、こんな本を書いています。
巻末で談春と「落語と精神分析」について対談してて、それはもう談志の死後だったから2人とも勝手な事を言ってて、
僕は頭に来て、志らくの独演会のあとのサイン会でその本を志らくに見せて、「これどう思います?」って抗議したら、志らくは苦笑してました。↓。

中井久夫。神田橋先生をもって、「中井久夫はウルトラマンである」と言わしめた男である。
法律でも微生物研究でも一線だったはずなのにわざわざ精神科に来てくれた。それは光の国から我らのためにやって来たウルトラマンと同じだという意味である。

東大で中井先生がゼミをやると聞き参加したことがある。(ちなみに中井先生は普段は神戸にいる)
でもそこは受付も会計もない東大の校舎の中の狭い一室だった。
後で知ったのだが、それは東大OBの集会だったらしい。
僕は部外者で皆に一瞬ジロリとみられたが僕はそういう空気は全然平気なので、「出てけ」とも言われないから、お話しを最後までうかがえて有意義だった。

分裂病の再発を発見する一番早い手は、ベロを出させ虫眼鏡でみる、のだそうだ。
それを小倉先生に話したら、「それは中井先生だから出来るのだから、真似しちゃいけない」と優しく諭された思い出がある。↓。

中井先生は神戸で震災があった時の被災者でもあった。
あの時、中井先生は日本中の大学病院の精神科教室に、神戸大学に来るように誘いをかけた。
でもそれは、SOSではなく、これは明日は我が身だから見学に来いという意味だった。

自らも被災者で、被災した患者の治療もしなくてはならない治療者に必要なのは、週に1回の温かくて美味しい食事と、生花だと書いてある。
特に黄色い花がいいらしい。この年の園芸会では、ひまわり、がよく売れたらしい。↓。

アメリカの操作的診断基準・DSM-Ⅲ以前の、ドイツ・ロマン主義的な精神医学ならこれがおすすめ。四方と書いて、「よも」と読む。にしまる・よも、先生。↓。

これをもっとコンパクトにお手軽にしたのがこれ。貴重な写真がふんだんに使われている。↓。

うつ病には、「Q&A」がオススメ。特に高齢者の「うつ」と「せん妄」と「認知症」の鑑別など判りやすく図で説明してある。↓。

母親になる人が読んでもいいのがこれ。カワクリ専門外来~「花嫁になる君に」~虐待防止プログラム、のミーティングをした時のテキストに用いたものです。↓。

ちょっとここで変化球。
小此木啓吾先生の「映画でみる精神分析」です。

僕は小此木先生のオフィスにグループ・スーパーヴィジョンに通ってたことがあるのですが、入口に、パピルスが飾ってあって、
その絵の意味は「黄泉の国で、現世でウソをついた人が罰せられてる」という図柄で、そんなものをカウンセリング・ルームに貼る神経がすごいなと思いました。
小此木先生の先祖は「小柴」という有名な武将らしく、そこから漢字を分解して、「小此木」という名前を貰ったそうです。
やっぱり精神療法は「個人」だけの自分史でなく、ルーツとか風土とか脈々たるものが背景としてあるという考えが大事なんだと考えさせられました。

この本は、映画マニアの先生が「100%趣味」で書いたような本ですが、その中の「シラノ・ド・ベルジュラック」を僕は何度も「投影性同一視」の説明の時に口伝えで聞いてて、
その話が好きになって、それで前にここでも「激写メ・ストーリー」にしたという舞台裏があります。
どうですか?いやぁ、やっぱり精神科って面白いですね。↓。

ちょっと脱線しますが精神医学とはクロスくらいな座標に「夢」があります。
夢の書籍で面白いのは、河合隼雄の「明恵、夢を生きる」です。明恵、と書いて、みょうえ、と読みます。あきえ、という女の子の夢日記じゃなく、夢を大切にしたお坊さんの話です。↓。

河合先生の弟子だった先生に昔、聞いたのですが、河合先生が本気で書いたのは、この「明恵」と「こころの処方箋」の2冊だそうです。↓。

というと数多ある他の書籍が手抜きみたいに聴こえますが(笑)
とは言っても、2人とももう死んじゃってるから死人に口なしですね。
僕は「日本人の昔話」が好きです。↓。

夢と言えば、もう1冊、別冊宝島の「夢の本」が面白いです。親鸞とかユングとか秋山さと子とか(←ディメンジョン、バラバラ)で構成されています。↓。

同じシリーズの「性格の本」も面白いです。これはユング心理学の紹介ですね。
医療分野でユングはあまり用いられないから知る機会にはいいですよ。
特にこの本の圧巻は、アーキタイプ別にふるい分けられる記述式の「心理テスト」で、医学的な信頼性や妥当性はありませんが、
そこらの占いよりは質がいいからやってみると面白いですよ。友人同士やカップルや親子でやって比較しあっても楽しいですね。↓。

とは言え、一施設に1冊欲しいのは、やっぱり「精神医学事典」ですね。
左のブルーの大きいのが古い方で、右の銀の小さいのが改訂版です。内容はかなり違います。
当然、改訂版の方が良い様に思いますが、僕は昔の大きいブルーの方が好きです。
日本語が平易なんです。
難しい言葉を使われると、「この人、本当は判ってないんじゃないの?」と疑ったり、或は、「伝わらない奴はあっち行け、シッシ」って閉鎖的な感じがするからです。
まぁ、単純に研修医の時から読んでるから、執筆人に思い入れがあるというノスタルジーなんだと思いますが。↓。

話を神田橋先生に戻そう。
僕は研修医の頃に心理の先生に紹介され代々木の花クリニックの神田橋ゼミに行った。6-7年通った。
毎週日曜の朝で「日曜学校」さながら、ほぼ皆勤で行った。それは平成9年3/30でいったんその会が終るまで行った。
「最終回」に配られたのがこの本。奥付をみると、平成9年3月29日発行になってるから出来立てホヤホヤだ。↓。

 

神田橋研究会の「最終回」では参加者1人づつと記念写真をとって、この本を手渡してくれたのでした。↓。

BGM. 大場久美子「エトセトラ」


19 Replies to “精神科おすすめ図書”

  1. 川原です。
    どんな名医も共通して言うのが、「患者に処方するのは、希望、だ」とか、「未来に希望を持たせる」という。
    そりゃそうなのだが、僕はいつもここで何かがふとよぎる…。

    一方、精神療法では、治療者の「個性」も重要だという。
    そう考えると、僕はあまり未来に希望を持っていないし、厭世的で「性悪説」だ。
    だから、患者と向き合うときには、
    「あなたの未来に希望を持たせてあげるのが僕の仕事なのだけれど、僕自身があまりそういう人間じゃないことを自覚してるから、
    そこはなんとか折り合いつけてやってゆくね」と正直に伝えて行くしかないと思っている。

    1. 雪だるまです。川原先生のオススメ本、借りてきました。これから仕事です。お守りに持って行きます。

      1. 雪だるまさん、こんばんは、お仕事大丈夫でしたか?

        オススメ本って医学書?あっ、世紀末研究所か、よくありましたね。
        オススメで思い出しましたが、今期のアニメは豊作だそうですね。
        僕は、「異種族レビュアーズ」と「推しが武道館いってくれたら死ぬ」をみてます。
        「異種族レビュアーズ」は風俗アニメで、BPOかかってこいやー的な気合いです。500歳の異世界人(エルフ)と、70歳の地球人のどっちがいいか?という哲学的な問答をするアニメです笑
        「推しが武道館いってくれたら死ぬ」はドルヲタなら感涙ものですし、百合要素もあります。一話のEDテーマ曲が流れた時は号泣です。
        どちらも、今週末でまだ2回ですから、追いつけます。もうみてたらゴメン。ではまたコメントして下さいね。

        1. 雪だるまです。無事不安もほとんどなく行くことができました。お守りのおかげです。笑 借りたのは、河合隼雄の「昔話と日本人のこころ」にしました。近くの図書館漫画が置いてないのです。置いてほしい。残念。世紀末研究所も読んでみたいです。そして今期アニメ熱いんですね!全然チェックしてませんでした。EDだけでも聴きたい…。オープニングとエンディングマニアなのです。

          ありがとうございます。
           

          1. 雪だるま さん、こんにちは。

            「日本の昔話」ですか、あれは分厚いけど、面白いですよね。
            僕は昔、知り合いの子が読書感想文が終らないというから代わりに書いてあげて、本気で書いたら「100点」をもらい、
            そぞや喜ばれるだろうと思ったら、「あやしまれた」ってナンクセをつけられた思い出があります。そこそこ、は大事ですね。

            今、ネットでOP&EDのノンクレジット流れてますね。是非みて下さい。ではまたね~

  2. 単純に「面白い」「興味深い」と思ったのが、北山修氏の「見るなの禁止」です。
    マンツーマンで女子患者さんの例、男性患者さんの例をあげて、カウンセリングをしていく様子を記録するわけですが、そのカウンセリングの回数が、それぞれ、ものすごく多い。それにびっくりしましたね。本当に読みでがありました。

    1. papaさんは、さすがに良く知ってますね。
      「見るなの禁止」って語呂もカッコイイですね。
      今日は偶然お昼に「北山修」の話をしてたんですよ。
      ただし、歌手の方の。
      実際のCDを見せて、「フォークルのさよならコンサート」やソロアルバム3枚などをみながら、浅川マキの「赤い橋」について考察などしてましたから、このコメントはシンクロしてて少し驚きましたよ。ではまたね。

  3. 続けていたカウンセリングがいきなり終わって、その後の治療場所も提供されない状況が3ヶ月以上続いています。
    こんな事って、本当にあるんでしょうか。

    1. シロクマさん、OHA!

      カウンセリングは「相性」や「共同作業」という側面があるから、そちらがダメならハイこちら、って訳にも行かないのがつらいところですね。
      恋に少し似てますね。心中、察しますが、令和2年になったし何かいいことあるといいですね。

  4. お金を払ってますし、恋ではなく治療ですので、3ヶ月たっても駄目なら、他の治療計画が明示されるべきだと思うんですがいかがでしょうか??

    1. シロクマさん、OHA!

      昔、英会話の広告で「お金を払ってるのから、ちゃんとしてもらった方がいい」というのをみたことがあります。
      「恋」を例えに出したのは、僕の失策ですね。ごめんね。

  5. M先生にも、昔ほとんど理由の説明もなく、カウンセリングを終了されました。私はその後も、ずっとその寂しさを一人で抱えて過ごしました。今回Y先生には私が1番大変な時期に、もちろん私側に落ち度があったとしても、ほとんど説明の時間を与えられず終了になりました。
    精神分析って、あまりにも残酷な気がするのは、気のせいでしょうか。

    1. シロクマさん、OHA!

      精神分析に限らず、カウンセリングは「契約」だから、「冷たい」と感じるかもしれませんね。
      なんとなく言わんとしてる意味は判りますが、「当事者」じゃないからあまり無責任なことも言えなくてね。
      前後の文脈が判らないから、すみません。

  6. コメントどうもありがとうございます。
    あ、川原先生は当事者じゃなかったですね。なんだか、色々なもののボーダーラインが曖昧な最近です。
    にしても、先生の美容室の記事がささりました。
    とりあえず、今から会社に行って退職を伝えるための「ご相談」のMTG設定はしてきます。

    1. シロクマさん、こんにちは。

      MTGとは、ミーティングでいいですか?
      頑張り過ぎないようにして下さいね。

  7. かかりつけのクリニックに連絡したら、T先生は、20日まで予約が取れなくて、以前のM先生は見てくれないそうです。
    私の治療計画、4ヶ月放置になりそうです。

    1. シロクマさん、こんにちは。

      「予約」が機能してないうちのようなクリニックからすると、「完全予約制」は患者さんにとってはプラスかと思ってましたが、
      こういう事態も起きる訳で、何事も一長一短ですね。

  8. 川原先生、こんばんは。

    神田橋先生の本、とても面白いです。
    子育てに関してもだけど、私の仕事に関してもとても興味深いです。治しやすい部分からなおせばいい。とか、1番悪い症状の中に本人の可能性や強みを見出す。とか。

    今日は、人に頼ってみました。15時ごろ、母親に「今日はどうしても動けなくて、疲れちゃたから、今から来て夕飯作りと息子のお迎え手伝ってくれない?」と電話しました。母はふたつ返事ですぐに来てくれました。夕飯は、私の好物の、白味噌のお雑煮です。少し母に甘えてみました。

    親に甘えるなんて子供みたいで恥ずかしいので、明日からはいつも通りになろうと思います。

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