教訓Ⅰ~追悼、中西先生

10/Ⅸ.(水)2014 はれ、求人公募中
来月、「アイザワ先生」と会う約束だ。
「アイザワ先生」は僕が大学病院にいた時の指導教官だ。
今は退官されて、もう何年になるだろう。
公の場には一切、出て来ない。隠居生活を満喫している。
僕は時々、たとえば、「5/18問題」のように困った時だけ、一方的に手紙を送りつける。
すると、「アイザワ先生」はさすが隠居生活、すぐに返事をくれる。
こないだ、ふと、「アイザワ先生」に恩返しをしないとイケナイと思いついた。
「アイザワ先生」が直接指導して学位論文をとったのは、僕と今はA病院の院長をしている「T」の二人きりだ。
僕は、「T」を誘って、「アイザワ先生」はよっぽど暇そうだから中華街にでも招待してご馳走しよう、と提案した。
指導教官と言えば、親も同然。親孝行しよう。僕は、本当の親はもう死んじゃってるし。孝行したい時に親はなしだ。
「T」も乗り気で、なので連絡は、「T」に任せた。
話はトントン拍子で、「アイザワ先生」の返事は快諾で、ただ、1つだけ条件がある、と。
それは、この会は、自分が二人を招待する会にしたい。
店は、「アイザワ先生」自身が決める。お金は全部、自分が払う。なんなら、家族を連れて来ても良い、とのことだった。
立川談志が、「すぐに恩を返そうとする奴は恩知らずだ」と言ってたのを思い出し、ここは素直におごられることにした。
「T」は本来の趣旨と異なると少し躊躇していたが、そこは民主主義、多数決で2対1だ。
僕と「T」は、「アイザワ先生」に来月、ご馳走になることになった。
そんな時である。8月のなかば過ぎに中西先生が亡くなられた。
直前までご自身のクリニックで診療をされていたという。
突然の病死だった。
中西先生は僕の高校の先輩でもあるし、学生時代も医局に入ってからもお世話になった。
中西先生は、野球部の出身だったから、医局対抗の野球大会では、キャッチャーをやってもらいチームの要役だった。
温厚でいつも落ち着いていて弱い者の味方で優しく威厳があって上品で洒落のわかる人で、皆が一目置いていた。
若い頃の僕は悪目立ちするので、意地の悪い先輩にいじめられて、そうすると必ず、中西先生が助けてくれた。
去年くらいに医局の集まりでお会いしたのが、最後になってしまった。
僕は恩知らずで、中西先生の姿を見ても、<ヨッ!>と酒の入ったコップを上に向ける挨拶だけ。
ビールくらいお酌するとか、近況を報告するとかすれば良かったな。悔やまれる。
だって、まさか死ぬとは思ってなかったから。
しかし、我々の医局の精神科開業医は50代で死んでる人が多い。異常なくらい若死にが多い。
中西先生も、50代だった。
僕は何人かの開業医に、<天国お迎えレース、次は誰だ?>と一斉送信したが、誰からも返信がなかった。
そのくらい、皆、ショックだったのだろう。不謹慎だったのかな?
「T」はA病院の院長だ。
僕は、「T」に<開業医達は皆、戦々恐々としてるよ>と言うと、「勤務医だって同じですよ」と怒られた。
「明日は我が身ですよ」と言われた。<しかし、「アイザワ先生」は80だぞ>と僕は言った。
すると、「T」は「今度、お会いしたした時、長生きの秘訣を伺いましょう」とうまいこと話をまとめた。
そうしたら、つい先日、「アイザワ先生」から分厚い封筒が、僕と「T」の家に届いた。
同じ内容で、複写した同じ文面だった。
「アイザワ先生」の手紙の書き出しは、「10月の会だが、やっぱり、私は行かないことにする」だって。何、それ?
まさかのキャンセル。
そして、その分厚い手紙には延々と言い訳が綴られていた。
言い訳と言っても、「夏が暑いから」とか「10月になったって、夏バテはとれない、と思う」とか「しんどい」とか。
「今年になって、一回、横浜に行ったがすごく疲れた」とか「東京なんて、もう何年も行ってない」とか。
「最寄り駅まで行くだけで一苦労」とか「体重は5キロ減った」とか「おかげで、スマートになった」と訳の判らない自慢をしたり。
「私は隠居生活者だ。ひきこもりだ。さぁ、なんとでも言ってくれ」みたいな開き直りみたいなことも書いてあった。
呆れた。
そして、どうせ会があっても、自分の話す内容はこんなことしかない、と言って、将棋と最近読んだ本のことが書いてあった。
現在日本将棋連盟所属のプロ棋士はおよそ150人いて名人を筆頭にA級、B1、B2、C1、C2、と5クラスあるとのこと。
2~3日置きにインターネットでリアルタイムの将棋が観戦できる、という情報。(いらない)。
そして、読書は「昆虫記」とかを読んでるらしい。夏休みに「昆虫記」って、子供か!、っつうの。
こんなことは言いたくないが、僕も「T」も結構、忙しい中、日程をやりくりして、設定した親孝行の会だ。
それに対して、「いかがでしょうか?」、と言うスタンスではないのである。
「私は行かない」という一方的な通達なのだ。
僕は「T」に、<あれ、読んだ?>と聞くと「読みました」と困惑していた。
そして、僕らは、義理とか人情とか恩とか恩返しとか一切考えないこと、それが長寿の秘訣だな、という結論になった。
とは言え、このまま黙って、引き下がる我々ではない。今、策を練っている。
何か、表題と全然違う内容になってしまいましたね。ま、「教訓」と言えば、「教訓」だが。
あらためて、中西先生、ご冥福をお祈りいたします。
そして、中西先生の残された患者さん達のフォローをされている近隣の先生方、ご苦労様です。
特に、ヨー君やカミムラ先生など昼休みも返上して、診察してるそうですね。自分たちが倒れないようにね。
あと、きしろ、も。
今回の中西先生の件で学んだのは、クリニックは院長が死んだ時点で閉院になる、ということだ。
だから、代わりに医者が応援に行っても、そこでは薬も出せないし、紹介状も書けないらしい。
「法人」にしておけば、死んじゃっても、ピンチヒッターがきくらしい。
「法人化」なんて手続きが面倒くさそうで考えたこともなかったが、残された患者さんのことを考えたら、それも有りだな。
それが今回の教訓かな。中西先生が最後に教えてくれたこと。
次回、いよいよ、予告ブログ、「生きること死ぬこと」に続きます。
BGM. 初音ミク「いつか何処かで(I feel the echo)/桑田佳祐 」


14 Replies to “教訓Ⅰ~追悼、中西先生”

  1. 先生、こんにちは。
    私は以前、誰かから「40代を過ぎると人は自分の死について考えるようになる。」
    と言われたことがありました。その時は大学生だったので「?何言ってんだろう」
    ぐらいにしか思っていませんでしたが、いま実際にその年齢になってみると、
    その言葉は妙に説得力があります。今は人生を死から逆算して考えるように
    なりました。今、何をするべきなのか。残された時間は確実に決まっているのだと。

    1. やられメカさん、こんにちは。
      ジョン・レノンが死んだのは、40才でしたね。
      当時、日本のロッカーは、「ジョンが死んだから、40才以降の生き方が判らない」と似たようなコメントを出してましたよ。
      ジョンが死んだ時、僕は高校生でしたから、「?何言ってんだろう」と思いましたよ。(笑)
      そして、今、ポールもミックも70過ぎても元気でワールド・ツアーやってますね!だから、僕は割りと楽観的です。
      暗殺さえ、されなきゃね。

  2. A先生の思考パターン解りませんね~。
    確かにそのマイペースが長寿の秘密かも。
    先生は50代で死なないで、長生きして、クリニックを続けて下さい。
    宜しくお願いします!

    1. sinさん
      こないだ大学のOB会(中西先生追悼の意義が強かった)で、記事に書いたこととほぼ同じことをスピーチしました。
      A先生の話、受けましたよ(笑)
      僕は長生きするように、旬の魚を食べて、良い酒を呑んで、エネルギーを充電します。
      教えてもらった「イカ」も食べに行こうかな?
      ブログも長く続けたいと思います。これからもよろしくお願いしますね!

  3. そういえば、先生のところに殺害予告のような嫌がらせメールが
    あったそうですね。
    歴史上、英雄は暗殺の対象になり易いので気を付けてください(苦笑)。
    A先生の手紙の話は、とても面白かったです。80歳のおじいちゃんなのに
    とてもお茶目な感じがしました。

    1. やられメカさん
      例の件、ご心配かけて、ありがとうございます。
      警察にも届けましたし、大岡山の自警団も協力してくれてます。
      僕は僕でイスラエル軍で開発された接近格闘術を習う予定。
      相手が棒やナイフや拳銃を持ってる場合や、複数の場合を想定した護身術です。
      実戦適応力では他の格闘技の比ではありません。
      FBIやSWATでも採用されてるそうです。
      ところで、A先生は「お茶目」ですか?(笑)
      次回、予告ブログ「生きること死ぬこと」でも脇役として出演予定です。
      師弟愛、ちょっと、楽しみにしていて下さい。
      自分でハードル、上げてどうする?

  4. 川原先生、こんにちは。
    以前、先生のもとで診察を受けたことがある者です。
    また、先生のもとで診察を受けたいと思っています。
    ただ、実家からクリニックまでが遠いので通院が難しいです。
    こんな私ですが、またお話だけでも聞いていただけませんでしょうか。
    お返事お待ちしてます。

    1. candyさん
      最近は、不思議なもので、懐かしい患者さんがクリニックに立て続けに来ました。
      勿論、たまたまなのでしょうが、まるでしめし合わせたかのようにです。
      そういう時期って、あるのでしょうか?不思議です。
      candyさんも、そんな感じなのかしら?
      カワクリには、うんと遠くから通ってきてくれる方もいます。
      さすがに毎月は無理でも、時々、顔を出すような感じで訪ねて来てくれる人がいます。
      こういう仕事をしていて思うのは、それは有り難いことだと思うのです。
      だから、candyさんへ、どうぞ~

  5. A先生は、思いのほか趣味などにお忙しいのではと思いました。
    母が今年80歳になるのですが、学生時代の友人との旅行、カラオケ、写真教室、もろもろのお付き合いなど結構スケジュールがいっぱいです。
    E社に勤めた時の上司(親も同然)と年に1回ランチ会をしています。私が幹事です。
    人数は、同期、先輩など9名位(内7名が女性)。
    上司の好きな先輩(女性)には必ず出席していただいてます。
    お支払いは、自分の食べただけ各自ばらいです。
    上司は年金をたくさんもらっているので奢ることはできます。
    でも長く続けるには、奢っていただかない方がいいのです。
    A先生が、お元気でいらっしゃるうちに何か企画(女性も入れてとか)たてるのもいいかと思いました。

    1. あんころもちさん
      お久しぶりです!
      コメント、ありがとうございます。
      大変、参考になりました。
      A先生の会、女性も誘ってみます。
      僕のオーベンだった、I・先生が、A先生と親しかったので誘ってみようかな。
      「T」もよく知ってるし。
      色々と、ファンタジーは膨らみますね。
      お陰で、刺激になりました。ありがとう。
      また、コメント、下さいね。

  6. 2年前まで中西先生のクリニックに通っておりました。
    先週ホームページを見ようとしたらページがなくなっているのでおかしいなと思い
    先生が非常勤で行ってたクリニックのブログを見たところ、亡くなられたと読みびっくりしました。
    他の病院を探していて、たまたま川原クリニックのページを見つけブログを読んだら
    中西先生のことが書かれていてまたびっくりしました。
    穏やかで優しい先生で復職で困ってた時に相談にのっていただいたりしたので、こんな早くに亡くなられて
    ショックです。。

    1. まーごさん
      中西先生が亡くなったのには、我々、同業者も皆、ショックでした。
      それは「明日は我が身」という面もありますが、やはり中西先生のお人柄によります。
      優しい先生でしたね。それでいて、1本筋が通っていて、決してブレない尊敬できる先輩でした。
      中西先生と高倉健が同じ年に死んだのを僕はこの先、ずっと覚えているでしょう。
      しかし、まーごさんには、意外な経緯から、コメントをいただいて有難うございました。
      これも、何かのご縁です。
      何か私で役立つことがあれば、言って下さい。
      ちなみに中西先生のフォローで評判が良いのは、「長谷川診療所」と「溝口メンタルクリニック」と「きしろメンタルクリニック」みたいですよ。

  7. 川原先生
    ご返信ありがとうございました。
    中西先生のことをご存知の方がいて少しほっとしました。
    他院の情報もありがとうございます。
    中西先生とお話したこと少しずつ思い出します。先生もあがり症だったようで学校時代のエピソードなども
    教えてくださったり、「先生でもそうなのか~」と思ったりしました。
    ちょっと今体が不調で精神的なことからきてるのかわからないのですが
    そのことを相談しに中西先生のところに行こうかなと思ってた矢先でした。
    もしかしたら川原先生のところにお伺いするかもしれません。
    その時はよろしくお願いいたします。

    1. まーごさん
      中西先生の「采配」かもしれませんね。
      僕で良ければ力になります。
      でも、僕は生まれてこのかた、「あがった」ことがないから、どうかしら?
      中西先生とのギャップが激し過ぎるかも。
      「あがり症」かどうかは判りませんが、長谷川先生が繊細さでは一番中西先生に近いかも。

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