29/Ⅲ.(火)2011
20才ちょっとの頃の話だ。僕の友達に「ナベゾ」というのがいる。
ナベゾとは、当時「ガロ」系で活躍してた渡辺和博という漫画家のニックネームで、
友達の名字が「ワタナベ」だったから、ナベゾと呼んでいた。
ナベゾは、写真学校に通っていて写真に詳しかった。
僕には父の肩身の一眼レフのカメラがあったから、ナベゾに色々教えてもらいながら写真を撮った。
ナベゾは、「写真とは時間を切り取る道具だ」と言い、
初心者の僕にはまずいつも見ている光景をファインダー越しに見るとどう映るかを知った方が良い、
と渋谷で街や通行人を撮ることにした。
始めはビルやネオンやサラリーマンを撮っていたが、段々と女の子ばかりを撮るようになる。
女の子たちは、「イエーイ」とピースサインをして来たり、「撮って!撮って!」と言ったり、「やだー」って逃げる子もいた。
それらを追いかけながらバチバチシャッターを切ってると、次第に脳から変な物質が分泌してきたみたいで、
なんだかハイな気分になってくる。
僕はカメラを持って渋谷の街を走り回り、
<なんだか楽しいな~>と頭の悪い子供みたいに笑うと、ナベゾは僕に伴走しながら、
「なっ、写真って面白いだろ?」と得意気に言った。でも、コレって写真が面白いってことじゃないよな?
ナベゾがゲンゾーしてくれたり、そういう工程も楽しかったのだが、
古いカメラなので不具合が生じ、本社のカメラ屋に修理に持っていったら、
奥の部屋に通されて、このカメラを譲ってくれと言われた。
当時の自分の生活水準からすると、馬鹿高い値がついた。
写真もそろそろ飽きてきてたから売ってしまった。
こういうアブク銭みたいなものをずっと持ってるのは良くないことだと判断し、
友達を大勢集めて飲み食いに使い一晩でパーって使ってしまった。
「おごる」と言うと人はたくさん集まるものだ。友達の友達、なんてのもいた。
はじめまして、だって。
まぁ、でも今振り返っても、この判断で良かったんじゃないかと思う。
カメラにとっても、価値がわかる人が持ってた方がいいだろうし。
ナベゾに、一番すごい写真家って誰?と聞いたことがある。
ナベゾは、何でも良く知っていて説明もうまい男なのだが、
ダイアン・アーバスやらロバート・キャパやらの名をあげウンチクを語り、でも一番はラルティーグだと言った。
実際に写真も見せてくれた。
ダイアン・アーバスの撮る双子の女の子の写真や、ロバート・キャパの戦場で撃たれる兵士の写真に較べ、インパクトが薄いのである。
でも、ナベゾが一番だと言うんだから、写真はそうやって見るんだと疑わなかった。
ラルティーグは生粋の素人カメラマンで家族写真を多く撮っている。
ナベゾによると、被写体との距離感みたいなものがポイントだと言っていた。
僕が、「篠山紀信の前だと脱いじゃうみたいな?」って聞くと、「そうそう!」と答えていた。
なんだか、いい加減だな。ハタチそこそこですから、そこは一つ。
ナベゾは僕の父が趣味で写真を撮っていて、僕の子供時代の写真が異常に多いのを知っていて、
まだ父が死んだばかりの頃だったから、その辺も配慮してラルティーグを推したのかもしれないな。
被写体との距離感というと、徳田さんが撮るお花は総じて綺麗なのである。
下は、今日のお花、チョイスは岡田さん。↓。
まるで、お花が心を開いて、「私を撮って!」と言ってるみたいでしょ。
BGM. 斉藤哲夫「いまのキミはピカピカに光って」