11月30日で、入船、が店を閉じた。店主が27才の時にオープンして51年やったそうだ。翌日の、12月1日に店の様子を見に行った。もう看板も取り外された。↓。
裏口に回ってみる。↓。
ご自由にお持ち下さい、と容器などが外に出され、「ここのは良いのを使ってるからね」と見知らぬおばあちゃんに話しかけられ、仲良くなる。↓。
いっぱい人が来てました。↓。
車庫にも器類が置いてあります。↓。
店の中を探索してみましょう。↓。
数が揃ってる器は業者が買い取りに来るそうで、綺麗に揃えて準備してあります。↓。
水槽も空ですね。いつも、車えびが泳いでいた水槽。↓。
入船は、個人事業主としては初めて、本場所に懸賞金を出した唯一の店です。この額装入りの物が、等身大の本物の懸賞旗です。↓。
お店はスケルトンにする必要があるから、こういうお宝も取り外します。↓。
業者に売らない、お宝類は軽トラックに積み込まれます。↓。
これが、その車の中。↓。
このお店は僕の医局のボスの行きつけでもありました。ボスは毎週、火曜日の昼くらいから相撲の終る時間くらいまで1人でチビチビ呑んでたそうです。主に、ウヰスキーを好んでました。
ボスは僕が医学部の6年の時の入局面接の担当官でした。彼の手元には僕の資料があり、2つ質問されました。「第三希望まで書くところがあるのに、何故、精神科としか書いてない?」に、僕は「精神科医になるため、医学部に入ったから」と答えました。「ふ~ん」とボスは答えると、僕の成績表に目を落すと急に声を荒げて、「君、とっても成績悪いよ。医局説明会どころじゃない。今日はもう早く帰って勉強しなさい。君が無事卒業して国家試験に受かったら、我医局は君を喜んで受け入れるから、さぁ、帰りなさい」と僕だけとっとと返されました。そんなボスももう死んでしまいました。
ボスは死ぬ前日も、入船で呑んでたそうです。店主が言ってましたが、相撲の結びの一番どっちが勝つか、大トロ炙り一貫、賭けて勝負したそうです。店主は横綱、ボスは平幕。そうしたら、その一番は大番狂わせで横綱が負けたって。つまりボスの勝ち。でもボスは「もうおなかいっぱいだから」と「今度来た時、大トロ炙り、をもらうよ」と言って帰ったそうで、それがまさかの最後のボスの笑顔だったそうです。入船の店主は、ボスの葬儀にもみえてましたよ。義理堅いですね。
そんなボスの呑み残したウヰスキーのボトルもあるそうです。店の後片付けをしてる人に、「センセー、持ってきますか?ウヰスキーの中身は新しいのに変えておきますよ」って。↓。
下は、ボスがペンネームで書いた自伝的小説。主人公は、アル中の大学教授。この本が出版された時、医局員は半強制的(自主的に?)に買ったものだが僕は買わなかった。なんで持ってるかというと、入船の店主に「センセーも読んだ方がいいよ。うちの店が出てくるから」って貰ったから。↓。
これが、入船について書かれてる箇所。↓。
さて、そういう僕は入船ではいつも冷酒を呑むのですが、記念にその冷酒を入れる容器をもらいました。「ねぇねぇ、ついでに冷酒もない?冷蔵庫に2-3本残ってるでしょ?」って言うと、お酒の余りは業者が回収にくるそうだが、旦那さんも数まで数えてないだろうから、と3本もらった。家で呑むつもり。↓。
11月30日の最終日は、土曜日で、おまけに最終土曜だから、クリニックはミーティング。最終日には、顔を出せないから、前日の金曜のお昼にクリニックを抜け出して寄ってみた。満杯だったが、入れてくれた。もうおしまいも近づくと、名残惜しいと客がたくさん集まる。自然と、店主に負担がかからぬように、皆、おまかせ寿司コース、しか頼まない。これだと同じものを同じ順に握ればいいから、店主が楽だろうと。
まずは赤身から。↓。
中トロ。↓。
アジ。↓。
サバ。↓。
トロタク。↓。
お椀。↓。
さっきまで水槽にいた、車えびの湯がきたて。↓。
これぞ江戸前寿司、穴子&蒸し鮑&卵焼き。↓。
イカは塩味になっています。↓。
大トロ炙り。これが、因縁のボスが食べ損ねて死んだ、寿司です。↓。
ここで、店主がパフォーマンスを。大間のマグロをおろしていく。皆んな、一斉にカメラを持ってフラッシュがたかれる。↓。
これが、日本一のマグロ。このワンブロックで、300万円だってさ。↓。
それをひときれ、ニンニク醤油で、配られる。これがうまい。↓。
入船の屋号の継承権のある人と話をした。当然だが、規模を小さくしても良いから、店を続けてくれないか、とリクエストが多いそうだ。ただ、そこは慎重で、暖簾を汚したくない、という。また正直、今の時代、魚は厳しいらしい。名店と言う寿司屋は大抵スポンサーがついてるらしく、入船のような個人店はむしろ少ないらしい。寿司は単価は高いが儲けは少ないらしく、正直うまみはないそうだ。彼には実は「ある考え」があって、それをこっそり教えてくれた。僕はそれは面白いと思った。実現したら教えてくれると約束した。機密事項だから、ここでは言えません。ごめんね。
そして、さっきの入船の懸賞旗とか、お宝を乗せた軽トラックはどこへ行ったでしょう?
実は、カワクリに来たのです。↓。
これがお品書き。↓。
これがお品書き・小。↓。
これはお店に来た有名人のサイン。王貞治や鶴瓶。↓。
これが実際に使われる、力士がもらう懸賞袋。↓。
これは店主が、朝青龍の断髪式に出て、ハサミを入れてるところの写真。↓。
白鵬は、個人事業主がはじめて懸賞金を出したと聞いたら、お店に駆け付けたそうです。日本人の心を持っていますね。↓。
その時の、白鵬の手形。↓。
これが額装入りの懸賞旗。玄関に出してたら、誰かが寿司屋と間違えて入ってきそうだ。ただでさえ、「ここ、病院でいいんですか?」と聞かれることが多いというのに。↓。
次期継承者に僕は2回車で送ってもらったことがある。店と自宅は徒歩圏内だが、僕が酔っ払って店で転んだ時と、台風の日の帰りだ。
今回もクリニックまで僕とお宝を運んでくれたのは彼だ。彼が見たがるから、クリニックの中を案内してあげた。「センセーの所には、きっとご家族にも見せれないものを収納する秘密部屋があるのでは?と想像してたんですが、まさか丸ごとクリニックがそうなんですね~」と感心し、「けいおん、だ。あの花、だ。物語シリーズ、だ。ベビメタ、だ」と一々声に出して反応してくれるから、こちらも嬉しくなる。「センセー、ここ夜はバーにしたらどうですか?流行りますよ」とアドヴァイスをくれ、「へ~、こんな店のやり方もあるんだなぁ」と言っていた。そんな彼が、もっとも反応したクリニック内の物は何だと思いますか?
ヒントは、診察室にあるものです。
正解は、↓。
宮沢りえ、の新聞広告でした。彼は、「この写真集、持ってましたよ」と懐かしそうに笑っていました。